譲渡を進めていることは、あくまで内密に

院長にちょっと相談したことで、交渉が破談に……

「本当にこれでいいのだろうか」「この金額で売ってしまっていいのか」。譲渡交渉を進めている最中は、誰かに相談したくなるものです。

しかし、譲渡を進めていることは、周囲のどんな人にも漏らしてはいけません。

たとえば、医療機関、問屋、家主、リース会社など、あなたの薬局と関係しているステークホルダーに漏らすのは、タブー。なぜなら、あなたに対する不信感が芽生え、取引停止などの事態に陥ることが少なくないからです。過去には、それが原因で、交渉が破談したケースもあります。

その実例が、X社さんです。X社さんは、7店舗の薬局を経営していましたが、うち1店舗の薬剤師さんと事務員さんが突然退職することになったのをきっかけに、その店舗の譲渡を決意されました。その店舗は、1日平均70枚の処方せんを応需しており、譲渡先探しには困らない状況でした。予想通り、すぐに譲渡先が見つかり、数千万円で契約がまとまりつつありました。

ところが、大きな問題が一つ。営業部長が、弊社に相談をする前に、処方せんを発行している病院の院長に、譲渡を相談していたのです。

その病院の院長から電話が入ったのは、契約直前のこと。「これからは、近所の別の薬局に処方せんを応需してもらう」という内容でした。これで、評価価格が大幅ダウン。譲渡交渉も破談となり、最終的には、その店舗は閉鎖に追い込まれました。その薬局は、数千万円の利益と信用を失ってしまったのです。

利害関係者には、契約が決まった後に、慎重にその旨を伝えます。それまでは堅く口を閉ざしておきましょう。

従業員にも患者さんにも話してはいけない

もちろん、譲渡を進めていることは、患者さんにも話してはいけません。ちょっとしたはずみで、一人に漏らしてしまえば、噂は他の患者さんにもまたたくまに広がります。そうなれば、患者さんたちが他の薬局を利用するようになり、処方せんの応需数が減ることにもつながりかねません。また、めぐりめぐって、医療機関や家主に伝わることも、十分に考えられます。

一方、従業員に話すのはどうか。これはこれで問題があります。

あなたがオーナーから退き、新しいオーナーの下で働くと分かれば、従業員は少なからず動揺するものです。「これを機に、クビにならないだろうか」「給料が下がるのでは」「これまでと違った仕事の進め方を押しつけられるのでは」……。こうしたあらぬ疑念によって、仕事が手につかなくなる人もいるでしょう。これが原因で調剤ミスが発生したら、患者さんに多大な迷惑をかけてしまいます。

「信頼できるNO.2だけには話そうか」と考える人もいるかもしれませんが、上層部の数人がこそこそ何かを進めていると、従業員にも伝わるものです。

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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