Q6. 妻も薬剤師。二人でがんばり、店は多くの認可を得ている。投資した分、高く売るには?

島崎直樹さん(仮名・63歳)と妻の陽子さん(仮名・63歳)は、大学の同級生です。「結婚を前提につきあいが始まり、二人で切磋琢磨しながら国家試験、就職試験などを乗り越えてきました。キャンパスの芝生で二人で寝転んで教科書を読んだり…。それはそれで楽しかったな(笑)」

将来に向けての二人の夢は店を持つこと。そこで、直樹さんは大手調剤薬局、陽子さんは大手ドラッグストアに勤め、薬局経営の在り方についてじっくり研究したわけです。そして社会人5年目。いい物件をみつけたことを機に、いよいよ結婚しました。

駅に近かったことに加えて、周辺には総合病院がいくつかあり、そこはチャンスにあふれた場所でした。陽子さんは、ドラッグストアで学んだ販売促進や品揃えのノウハウをフルに生かして集客に務め、順調に売り上げを拡大してきました。

「でも、次第にドラッグストアの巨大チェーンが周辺にも立ち並ぶようになり、差別化が必要になってきました。そこで、様々な許認可の取得に精を出すようになったのです」

「一包化薬に係る調剤の実施」「難病医療」「小児特定慢性疾患」「特殊医療(人口透析)」などは、その一例です。許認可を取得することで、それを調べて訪れる患者さまも増えてきました。二人で力を合わせてよりよい薬局を作る作業も楽しいのですが、考えてみれば二人で海外旅行もいったことがありませんでした。二人ともまもなく65歳。一緒に海外に行ける体力が残っているのはせいぜいあと5年か10年くらいでしょう。

話し合った結果、働くのは65歳まで。その後は引退して、二人で旅行などを楽しむことに決めました。豪華客船で世界一周旅行、珍しい料理を食べつくすグルメ旅など夢は広がります。もちろん、老後資金もしっかり貯めたいものです。

豊かで安心な老後生活を送るためのポイントは、店舗がどのくらいの価格で売れるのかにかかっています。二人でがんばって育ててきた思い出深い店に高値をつけてもらうためには、事業譲渡と株式譲渡、どちらかよいのでしょうか?

A. すべての権利をひきつげる株式譲渡がベスト

島崎さんご夫婦のお店の魅力は、立地の良さに加え、様々な許認可を得ていることでしょう。

たとえば「生活保護法に基づく保険薬局としての指定」「障害者自立支援法に基づく指定」を受けていれば、患者さまの集客につながります。そうした指定を受けている薬局は少ないからです。せっかくの許認可を、お店の売買価格に含めない手はありません。島崎さんご夫婦は、迷うことなく株式譲渡を選ぶべきでしょう。

株式譲渡は、会社そのものを譲渡することなので、借金や権利も含めて会社がもっているすべての資産が引き継がれます。ですから、これまでご夫婦が取得してきた様々な店舗の許認可も、当然、新しいオーナーに引き継がれます。

それに対して事業譲渡は、店舗や在庫や機器類など個別に手続きをして譲渡するやり方です。店舗そのものは引き継げますが、「保健所の開設許可証」「厚労省の保険薬局指定」といった営業する上で必須の許認可ですら引き継ぐことはできません。事業譲渡を選択すれば、これまで苦労して取得してきた様々な許認可がすべて消失してしまうわけです。もったいないですよね。

ところで、株式譲渡を選択すれば、許認可に限らずすべての権利が引き継がれます。仮に自宅や会員権等が会社名義になっていれば、それも一緒に引き継がれてしまいます。株式譲渡を選択するなら、売買交渉が始まる前にきちんと資産の中身を整理しておきましょう。

薬局に付帯する主な許認可

薬局系事業承継の決定版
「上手に薬局を譲渡するための、たった一つの方法」より

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