そのままの姿で薬局が継続することも少なくない

「退職金代わりの大きな収入が得られること」は、確かに薬局譲渡の魅力の一つですが、それだけで、「ハッピーリタイア」と考えるオーナーは、ごく少数でしょう。

「これまで自分や先祖が一生懸命営んできた薬局が、まったく違う薬局に変わってしまうのではないか?」。そんな懸念を抱いている、売り手のオーナーは少なくありません。

譲渡後の経営権は新オーナーにありますから、店舗名を変えるのはもちろん、これまで勤めていたスタッフを全員解雇して、まったく新しいスタッフを募集することも自由にできます。しかし、そんなことをされたら、もはやまったく別の薬局になってしまいますし、スタッフが職を失うこともあり得ます。特に事務の方は転職が難しいことが多々あります。ですから、それは受け入れられないというわけです。

ただ、実際の事例では、「店名は変わらず、同じスタッフがそのまま働き続ける」というケースは少なくありません。なぜかというと、前でも少し述べましたが、「行きつけの薬局で薬をもらいたい」という患者さんの心理があるからです。店名やスタッフを変えたことで、これまでよりも売上が下がることは、よく見られます。

新オーナーも、わざわざそんなリスクを冒してまで、店の名前を一本化したり、スタッフを解雇したりすることはない、と考えるわけです。また、契約条件に「店名を変えない」ことを入れるオーナーもたくさんいらっしゃいます。

もちろん、新オーナー選びが鍵となりますが、上手にM&Aの交渉を進めれば、退職金が得られるだけでなく、育て上げた薬局もそのまま次世代につなぐことができます。この二つの条件を備えた「ハッピーリタイア」を実現することは、十分に可能というわけです。

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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