調剤薬局の経営をリタイアすると考えた時、同時に事業承継についても考えなければなりません。近年は後継者がいないと悩むオーナーは多く、どうすれば事業承継が成功するのか不安や疑問を持つ方は少なくないでしょう。そこで今回は、調剤薬局の事業継承事情からM&Aを成功させる上で知っておきたいポイントをご紹介します。

■調剤薬局で拡大する事業承継の特徴とは?

事業承継は、経営者の事業を別の誰かに引き継ぎ、会社やお店を継続させることです。経営権だけではなく、会社やお店の資産にブランド、信用力、取引先、負債など様々なものを後継者は引き継がなければなりません。会社と事業そのものを譲ることになるので、後継者選びや手続きに至るまで複雑で難しいものです。 調剤薬局業界ではオーナーのリタイアだけではなく、様々な思惑から事業承継が広まっています。平成28年度の厚生労働省による実態調査で、現在の調剤薬局は大手チェーンと比べて、個人や数十店を経営する小規模の薬局の方が多い状況です。個人や小規模の調剤薬局の場合、課題となるのは後継者不足です。 調剤薬局のオーナーも高齢化が進んでリタイアを考える人は増えているものの、業界全体で人手不足の状況が続き後継者選びに難航を示しています。特に業績が不安定な状態であると、事業承継にデメリットを感じて後継者になることを拒まれる恐れがあるでしょう。 その一方で、事業拡大を目的に調剤薬局のM&Aを行う企業も増えてきました。M&Aなら調剤薬局を残しながらリタイアできるので、後継者が見つからないと悩むオーナーにとっても最適な手段として広まっているのです。

■事業承継を準備するタイミング

調剤薬局のオーナーの平均年齢は60代とされています。そして、事業承継は65〜70歳くらいを目処に考えている人が多いようです。 ただし、その年齢に至るまでに後継者探しや育成が完了していないと、自分が望むタイミングで事業承継はできません。時間がかかることを想定して、早いうちから準備をする必要があります。 事業継承をして少し後悔したと答えるオーナーが多い平均年齢は38歳前後です。まだ若いので新しいことにチャレンジできると考えて事業承継を行いますが、もう少し遅くて良かったと感じる人は多いです。 ちょうど良かったと感じる平均年齢は43歳前後となっています。まだ健康的に不安がない年代であり、適度な経験とエネルギーがあるのでスムーズに事業承継を行えたと感じている様子です。あくまでも目安ですが、時間をかけて取り組むと考えると早くても40代、遅くても50代後半から60代のうちに事業承継の準備を進めていくと良いでしょう。 また、事業継承を成功させるには、明確な目標を立てることも大事です。いつまでに引退する、どれだけの資産を残すなど数字や具体的な目標を立てることで、無駄なく事業承継までのフローを構築できます。

■事業承継の方法は3パターン

事業承継の方法にはM&Aを始め、3パターンあります。 ・親族内事業承継 自分の子どもや配偶者、親族に事業を引き継いでもらうケースが親族内事業承継です。このパターンの事業承継は非常に多く、また経営者自身も自分の子どもや身内に継いでもらいたい気持ちが多くみられます。 しかし、事業を引き継ぐつもりはないと考える子どもや親族も多く、なかなか思い通りに行かない方法でもあります。また、経営者として会社の状況や事業内容の把握、素質を磨くために時間をかけて育成しなければならず、急なリタイアには不向きでしょう。 ・親族外事業承継 経営者の親族を除く人物を後継者とするパターンを親族外事業承継と呼び、主に会社の従業員や役員から選出するケースが該当します。中には外部から招いて事業承継するパターンも見られます。 親族外事業承継では、株式と経営権の全てを譲渡するケースもあれば、株式は保有したまま経営権を譲渡するケースも多いです。社員や役員、業界に詳しい外部の後継者は会社や業界の事情を理解しているので、親族内事業承継に比べて時間はかかりにくいです。しかし、経営者にふさわしい人物の選出や意思や手腕を引き継いでもらうための育成に手間がかかります。 ・M&Aによる第三者事業継承 M&Aは外部の企業などから会社を買い取ってもらう事業承継です。調剤薬局の場合、大手や中堅企業だけではなく店舗拡大を目的に個人の薬局オーナーや独立を目指す薬剤師が買い手になることもあります。親族や社内から後継者が見つからない場合に利用されることが多く、後継者探しや育成の手間を省ける点が利点です。 仲介サービスを利用すれば、専門的なアドバイスや提案を受けながら、自分の希望に適った買い手探しができます。注意点として吸収されて子会社となり、雰囲気や方針が大きく変わることもあるので、トラブルにならないように希望をはっきりさせて交渉しなければなりません。 M&Aの場合、事業承継は株式譲渡か事業譲渡が選ばれます。株式譲渡は自社株式の全て、もしくは議決権を獲得できる割合を譲渡する方法で、主に中小企業で行われている事業承継です。事業譲渡は運営している事業のみを譲ります。

■M&Aでの事業承継で発生する税金と節税対策

親族内事業承継や親族外事業承継では、相続税や贈与税などの税金が発生します。この場合、事業承継税制を利用できれば、会社規模に応じて相続税や贈与税の免除が可能です。 M&Aの場合は調剤薬局を売却することになるので、売却益に対して税金が発生します。売上益が高額なほど税金も高く付くので、税金面での理解や節税対策を取ることがポイントです。 ・株式譲渡で発生する税金 個人のオーナーが株式譲渡をした場合、税務上では個人の譲渡所得に該当するので所得税や住民税が発生します。譲渡所得は純資産と営業権をプラスした売却価格に、株式の取得費やM&Aの仲介手数料などを差し引いた利益です。 個人株主の場合は分離課税方式となるので、従来の所得税とは別枠で一律の税率となっています。所得税は15%、住民税は5%の税率となっているので、合計20%分が課税されます。 法人株主が株式譲渡した場合は、税務上では会社の利益となるので、法人税が発生します。それに加えて、法人住民税と法人事業税もかかります。 売却益の計算は個人株主の譲渡所得と同じですが、総合課税方式により他の所得を加えて算出し、確定申告が必要です。法人税に法人住民税、法人事業税を合わせると、課税所得金額によって異なりますが税率の目安は30〜40%程となります。 ・事業譲渡で発生する税金 事業譲渡の場合、譲渡利益は譲渡価格から純資産を差し引いた金額となります。純資産は譲渡する資産と負債の価格を差し引いたものです。譲渡価格は純資産と営業権を合わせたものなので、事業譲渡では営業権の価格が法人にあてられる売却益となり、税金が発生します。 法人の利益なので、法人株主と同じく法人税や法人住民税、法人事業税が発生します。また、株式譲渡ではなかった消費税もかかります。消費税はあくまでも営業権などの資産に限定され、譲渡する土地や売掛金などは除外されます。 ・事業承継における節税対策の方法 株式譲渡の場合、売却益を少なくすれば税額も小さくなります。売却益は譲渡価格から株式の取得費や仲介手数料を差し引いた金額であるため、差し引く分の額を大きくすることで、売却益を少なくできます。ただ、仲介手数料を増やしても手元に残る資金が増えることはないので、取得費を大きくすると良いでしょう。 取得費は税務上で価格が把握できない時は、売却価格の5%で計算可能です。取得費の売却価格が5%未満でも5%に引き上げて計算ができ、売却益を小さくできます。 事業譲渡は営業権が実質の売却益となるので、この事業承継を選択すること事態が節税になる可能性があります。例えば、純資産が1億2000円で営業権が8000万円だとすると、譲渡価格は2億万円となります。設立に1000万円を出資した場合、株式譲渡の売却益は2億9000万円です。 同じケースで事業譲渡した場合、営業権の8000万円が売却益となります。株式譲渡での税率は約20%なので、38000万円の課税が必要です。 一方、事業譲渡では税率40%とした場合、2000万円の課税となるので株式譲渡よりも抑えられます。ただし、手元にお金を残したい場合は株式譲渡の方が節税効果は高いと言えるので、譲渡取得や税額をしっかり計算した上で判断しましょう。 ・売却益の一部を退職金に当てて節税 株式譲渡のケースになりますが、売却益の一部を退職金に当てることでも節税は可能です。調剤薬局のオーナーを事業承継してリタイアする場合、売上益に退職金がプラスされた金額を受け取れます。退職金の一部を売上益から出す方法なので、受け取り金額が変わるわけではありません。 退職金にも退職所得税が発生します。しかし、株式譲渡で得た売却益と退職金の税金は別々に計算され、さらに退職所得税には控除が適用されるので、結果的に節税となります。 注意点は、退職取得税の税率は金額に応じて5〜45%に変動するので、退職金が大きいと手元に残る資金が減る可能性があることです。一度に高額な退職金を受け取ると節税効果は薄いので、少しずつ受け取る形式にしましょう。

■M&Aで調剤薬局を事業承継する流れ

実際にM&Aを行う場合、どのような流れで事業承継を行うのか知らない方は多いでしょう。一般的に行われているM&Aでの事業承継の流れをご紹介していきます。 ・資金や経営状況を把握する 事業継承にかかる金額を把握するために、所持している資産や経営状況を明らかにしていきます。チェックするところは会社の現状、株式の数・評価額、保有する技術・ノウハウ、オーナー自身の資金状況です。 オーナー自身の資金を事業にも当てている場合は、どこまで調剤薬局の資産であるかはっきりさせてきましょう。株式の価値は未上場だと正確に把握することが困難なので、専門家に評価してもらうことをおすすめします。 ・事業承継計画を策定 スムーズな事業承継を実現するために、事業承継計画書を作成します。事業承継書の内容は経営理念や中長期の経営計画、事業承継を行う時期、承継での基本方針などを5〜10年分にまとめていきます。突然の事業承継は薬局内に混乱をもたらし、また契約の変更手続きでも時間がかかるので、しっかり計画を立てていきましょう。 ・仲介会社へ相談 M&Aを行う際は調剤薬局のM&Aを行う仲介会社に相談すると、自分の希望に合った買い手を紹介してもらえます。希望を出した上で、客観的に価格や方針などの提案もあるので、個人的に行うよりもトラブルやミスを防いでM&Aが行えます。金融機関や公的機関、税理士・会計士・弁護士などにも相談できますが、M&Aの専門家の仲介会社の方がスムーズなのでおすすめです。 アテックは調剤薬局専門のM&A仲介会社であり、業界を良く知るスタッフがM&Aをサポートしています。また、マッチングサイトのファーママーケットからも譲渡先を募集することが可能です。買い手候補に目途がついたら、いつ頃に事業承継を行うのか、その後の経営方針などを従業員に伝えることも考えなければなりません。 ・M&Aの実行 買い手の紹介を得て双方が条件や交渉に納得すれば、基本合意書の締結となります。基本合意書とは条件の合意をチェックするための契約書で、売買価格やスケジュール、デューデリジェンスの協力、側線交渉権の付与などの内容がまとめられます。また、トップ同士の面談が終わった場合、交渉や取引を円滑にするためにM&Aの意思表示を示す、意向表明書を作成して提出しなければならないことも多いです。 合意後は、買い手側が買収する調剤薬局を監査する、デューデリジェンスが実施されます。監査によりM&Aにおける潜在リスクや相乗効果を確認し、売却金額や買収実行の可否が決まります。 何も問題がなければ法的な拘束力を持つ最終契約書の締結となります。最終契約後、一方的に破棄をすると賠償請求をされる恐れがあるので、M&Aの意思を固めた上で慎重に実行してください。 ・クロージング 取引が実行されると決済が完了し、経営権の移動が完了します。株式譲渡は支払いを受け取りことで完了しますが、事業承継では個別で移管手続きが行われるので注意しましょう。 事業承継の手続きは何かと手間がかかり、専門的な知識も必要です。アテックは長年調剤薬局のM&Aをサポートしており、個人から大手チェーンなど幅広い後継者候補を紹介しています。 薬局の評価やプランの提案、交渉などもワンストップでサポートするので、知識がない人も安心です。後継者不足や事業のリタイアに悩んでいる方は、アテックに相談してみましょう。
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