調剤薬局の経営者が抱える悩みの一つに後継者問題があります。今はまだまだ譲るつもりはなくても、いずれは後継者に経営を譲る時が来るでしょう。家族や親族、調剤薬局の従業員など、後継者がすでに決まっている場合はのんびり構えていることもできますが、そうでない場合は後継者を探す必要があります。

しかし、引退を考えた時にタイミング良く後継者が現れるとは限りません。こちらが後継者として指名したくても、相手に断られてしまうおそれもあります。調剤薬局業界では薬剤師不足が深刻化しており、後継者不在が原因で廃業しなくてはならない調剤薬局も少なくありません。

そこで今回は、後継者がいない場合の調剤薬局の事業継承に関わる問題について解説していきます。調剤薬局の事業継承を検討している場合はぜひ目を通してみてください。

■調剤薬局の事業継承の現状とは?



調剤薬局を経営していたものの、自身の高齢化などによって引退を意識するようになると検討しなければならないのが事業継承です。高齢になっても元気なうちは続けたいと考える人もいるでしょう。家族や親族、従業員など、すでに後継者が決まっていればそれも可能ですが、そうでない場合は後継者探しをする必要があります。

しかし、調剤薬局業界では深刻な薬剤師不足が続いており、いざ事業継承を行おうとしてもなかなか引き受けてくれる人が見つからず後継者が決まらないため、いつまで経っても引退できないというケースが少なくありません。

また、調剤薬局の事業継承には時間がかかります。事業継承に必要な調剤薬局の現状分析や事業継承計画の作成は客観的な視点から細かく洗い出しを行わなくてはなりません。日々の業務をこなしながらこれらを進めつつ、後継者候補を探さなくてはならず、のんびり構えていると事業継承が成功しにくくなります。

では、いつから準備を始めたらいいのでしょうか?60歳を事業継承の目安とした場合、5年を見積もって50歳の半ばから行動に移すと余裕を持った計画を立てられます。

前述の通り、事業継承の準備は調剤薬局の経営と同時進行するため、案外体力が必要です。経営の引継ぎも行わなくてはならず、後継者が決まったらすぐに引退できるというわけでもありません。最後まで気力と体力が続くよう、準備への取りかかりは早ければ早いほどいいのです。

■調剤薬局を事業継承しないとどうなる?



薬剤師不足が深刻になっている現状では、どんなに探しても後継者が見つからないことも十分に考えられます。事業継承をあきらめた場合は調剤薬局を廃業せざるを得ません。調剤薬局が廃業となるとどんなことが起こるのでしょうか?

・廃業手続きを行う必要がある

調剤薬局を廃業するのであれば廃業手続きが必要です。法人経営なら会社を解散し、営業を停止させます。株主総会で解散決議を行い、会社の持つ財産を清算した後、届出をします。

解散時には決算書の作成や債権回収、債務の弁済なども行わなくてはならず、清算決了登記や生産確定申告も必要です。煩雑なうえに膨大な手続きが必要となるため、税理士などに依頼する場合も少なくありません。個人経営の調剤薬局だった場合は廃業届出書などの各種届出だけで済みます。

・従業員を解雇しなければならない

調剤薬局を廃業すると、従業員の雇用は続けられません。廃業のタイミングで解雇することになります。個人経営のような小さな調剤薬局の場合は家族ぐるみの付き合いがあるなど、従業員との距離が近いことも珍しくなく、心苦しさを感じることもあるでしょう。つてがある場合は次の就職先の世話をしたり、雇用保険や社会保険の手続きを手配してあげたりといった配慮をしてあげる必要があります。

・借入金がある場合は債務が残る場合も 調剤薬局の経営で借入金がある場合は債務が残ってしまうこともあります。清算時に財産を現金化して完済できれば問題ありませんが、賄いきれなかった場合は経営者が返済を引き継がなくてはなりません。

また、調剤薬局の経営が思わしくないなどの理由から経営者が調剤薬局に対しお金を貸す“経営者借入”を行っている場合は、廃業してしまうとお金が戻ってきません。廃業によって債務が残るおそれがあるということも頭に入れておく必要があるでしょう。

・地域の利用者に迷惑がかかることも 政府の方針として、薬のことだけでなく健康について気軽に相談できる“かかりつけ薬局”を持つことを推奨しています。そのため、地域の調剤薬局として長年経営していた場合、かかりつけ薬局として利用してくれていた地域の人たちにも影響が出てしまいます。

廃業することによってまた新たなかかりつけ薬局を探してもらわなければならず、利用者にはきちんとした説明が必要です。調剤薬局の利用者には多くの年齢層がいるため、説明の手段やフォローなどもしっかり行わなくてはなりません。

■後継者がいない場合の事業継承



どんなに探しても後継者が見つからない場合は調剤薬局を廃業するという方法がありますが、調剤薬局を廃業すると多くの時間と手間がかかり、大勢の関係者に影響が出ることがわかりました。

実は、後継者が見つけられなくても事業継承できる方法があります。それが調剤薬局のM&Aです。「Merger & Acquisition(合併と買収)」の頭文字を取ったM&Aは、会社や事業の買収を意味します。

ニュースなどで取り上げられるM&Aは敵対的な買収であることが多く、あまりいいイメージを持たない人もいるかもしれません。しかし、M&Aのほとんどは友好的なもので、実際は一方的に吸収されたり乗っ取られたりといったような事態にはなりません。

特に調剤薬局の場合は、その地域に薬局を残すことが前提になるため、永続的な発展や雇用の継続といった側面が強くなります。全国的な大手チェーン薬局や地域の中堅薬局、個人事業主など、譲り先や譲り方も選択肢が多く、納得のいく事業継承ができるでしょう。

では、M&Aによる調剤薬局の事業継承にどのようなメリットがあるのか具体的にみていきます。

・従業員を解雇せずに済む M&Aによる事業継承をすることで経営者は変わりますが廃業を避けられるので、従業員を雇用し続けられます。長く働いている従業員の場合、転職によって職場が変わったり、仕事を覚え直したりすることは非常にストレスに感じるものです。

生活のことを考えれば早めに転職活動をしなければならず、肉体的にも精神的にも負担になってしまうでしょう。M&Aによる事業継承なら、そういった無用な負担を避けられます。

・まとまった資金を得られる M&Aによる事業継承の大きな特徴は売却対価が得られる点です。調剤薬局の売上や従業員の人数、立地などによって売却価格は変動しますが、1店舗につき営業利益の1.2~2.5倍ほどで売却できることが多いです。

調剤薬局の廃業には煩雑な手続きに加え、債務が残る場合もあることを考えると売却対価が得られるのは大きなメリットといえます。さらに、家族や親族、従業員などに事業継承した場合には得られない金銭でもあります。

・債務を手放せる 株式譲渡によるM&Aにて事業継承を実施した場合、事業や資産とともに負債もすべて引き継いでもらえるので、債務を手放せるというメリットがあります。ただし、事業譲渡の場合は負債が手元に残ることもあり、交渉によって負債を引き継いでもらう必要があります。

万が一負債が手元に残ってしまった場合でもM&Aによる事業継承なら売却対価を得られるため、完済できる可能性が高いです。

・地域の利用者に迷惑がかからない

調剤薬局を廃業することは、かかりつけ薬局として利用してくれている地域の人たちに迷惑をかけることにもなります。通い慣れたかかりつけ薬局がなくなってしまえば新たなかかりつけ薬局を探さなくてはならず、不便を強いることになります。

政府が推奨するかかりつけ薬局とは、健康相談や薬と体の相性などを理解してくれる地域の薬局のことを指しており、気軽に変更する性質のものではありません。薬剤師とも一から信頼関係を築かなければならず、迷惑をかけてしまいます。

M&Aによる事業継承なら経営者は変わりますが、調剤薬局は存続し、従業員も雇用が続くため、地域の利用者には何ら影響はありません。これまでと変わらずに利用してもらえるので安心です。

■M&Aによる調剤薬局の事業継承の事例



M&Aによる調剤薬局の事業継承ならメリットが多いことがわかりましたが、実際に事業継承を行った調剤薬局はどのような事情を抱え、どのような選択をしたのでしょうか?最後にM&Aによる調剤薬局の事業継承の事例をいくつかご紹介しましょう。

【70歳代の経営者・後継者不在】 年間売上5億円を誇る調剤薬局を40年以上経営していたが後継者が見つからず株式譲渡によって大手企業へ事業継承を行う。先行きの不安さからM&Aを決断した。

【50歳代の経営者・後継者不在】 調剤薬局を3店舗経営しているが、いずれも後継者がおらず、1店舗ずつ事業継承を始めると決断。仲介会社の利用と比較検討した結果、専門性の高かったM&Aを選択。

【60歳代の経営者・後継者不在】 薬剤師不足に加え後継者不在だったことから譲渡を検討し、近隣薬局に相談したものの条件面で折り合わずM&Aに踏み切る。譲渡先は中堅の中小企業だったが納得のいく条件で譲渡がまとまる。

【70歳代の経営者・後継者不在】 M&Aで事業継承を行った同業者から紹介を受けて検討。10店舗という多店舗経営を行っていたが、大手企業との交渉がスムーズにまとまったため全店舗を株式譲渡で事業継承。

【70歳代の経営者・後継者不在】 後継者不在により廃業を検討していたが、経営する調剤薬局での人間関係が良好だったため言い出せずにいた。M&Aによる事業継承で人間関係を悪化させず、廃業を回避することもできた。

【60歳代の経営者・従業員に事業継承】 調剤薬局についての後継者はいなかったが、従業員が薬店部分だけなら継承したいとのことで調剤併設店のみをM&Aにて大手企業へ事業継承した。

【50歳代の経営者・後継者不在】 病院の移転や土地の再開発などの影響により幾度となく店舗の移転を余儀なくされた。移転には廃止や新規申請などの煩雑な手続きが必要となり、後継者も不在だったことからM&Aに踏み切る。

■調剤薬局の事業継承ならアテックに相談を



調剤薬局の経営はそれぞれ違いがあり、事業継承に関する悩みも千差万別です。家族や親族、従業員などに事業継承する場合でも、M&Aを活用した場合でも、相談できる相手を見つけておくことが欠かせません。

「事業継承なんてまだまだ先の話」「仕事が生きがいだからずっと続けたい」と思っていても、いつなんどき事業継承の必要性が出てくるとも限りません。今すぐには考えていなくても、相談相手は確保しておくに越したことはないのです。

さらに、その相談相手が業界事業に詳しい専門家であれば、その時々に応じた適切なアドバイスがもらえるので、経営状態を良好に保つこともできます。薬局総合支援を行うアテックは、日本初の調剤薬局M&A仲介会社として創業しました。

アテックが運営するマッチングサイト「ファーママーケット」では、調剤薬局を譲りたい経営者と、譲り受けたい企業を引き合わせ、多くのマッチングをサポートしてきた実績があります。経営する調剤薬局の後継者が見つけられない、廃業は免れたいという場合はファーママーケットの活用を検討してみてもいいでしょう。

事業継承には経営者として残る方法や、営業権だけを譲る方法など多くの方法があり、譲り渡す側・譲り受ける側の双方が納得できる方法を選択できます。しかし、早いタイミングで準備を始めればそれだけ選択肢は多くなります。

アテックではこれまで多くマッチングを成立させた実績を持っており、培った経験とノウハウからあらゆる調剤薬局の事業継承のご相談に乗ったり、サポートをしたりすることが可能です。いざという時に慌てなくて済むように、将来に少しでも不安を感じるようなことがあればぜひお気軽にご相談ください。
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