調剤薬局業界では定期的に診療報酬の改定が行われ、調剤報酬や業務の変更など様々な整備がなされています。これまで調剤薬局業界は大きく成長し続けてきましたが、近年は利益を上げることが難しくなり、生き残りをかけて経営しなければならないという厳しい状況となってきています。

また、厳しい状況なのは収益確保の面だけではありません。今回は、調剤薬局経営が抱えている様々な課題や悩みを取り上げ、どのように解決していくべきなのかご紹介します。調剤薬局経営を成功させるためにできることや、個人の薬局経営者ができることなどについてもご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

■調剤薬局経営における課題とは

2022年度の診療報酬改定によって、調剤報酬の見直しや制度の変更、医療介護業界におけるICT化の整備などが行われた結果、調剤薬局の経営はより厳しいものとなっています。調剤報酬が引き下げられたことで、門前の病院やクリニックなど特定の医療機関からの処方箋を多く抱えていた調剤薬局への影響が大きくなってきているのです。ここでは、調剤薬局経営における課題についてご紹介します。

・調剤報酬の引き下げ



調剤薬局業界では深刻な高齢化による医療費削減政策として、医師の診療報酬に加え薬剤価格の引き下げ、調剤報酬の減額が同時に進められている状況です。そもそも、調剤報酬の改定には医療費の透明性の高さや患者負担額の軽減が主な目的となっています。

薬剤の製造・開発を担う製薬会社の製造原価や研究開発費は取引価格算定の都合上、明確になっていません。しかし、薬価算定のプロセスや根拠などを調剤報酬改定で明確化すれば、透明性のある医療費算定ができると考えられています。

また、国民一人ひとりの調剤医療費は年々増加傾向にあり、患者負担額を軽減させることは国の大きな課題となっています。高齢化や人口減少が加速する中、今後も患者負担額が膨らむと予想されており、調剤報酬は定期的に改定される可能性が高くなっているのです。調剤報酬が減少すれば、それだけ調剤薬局の利益も減少することになります。

・業務量の増加



厚生労働省では、かかりつけ薬局としての働きかけを積極的に行っています。その分患者さんの残薬の確認や、薬剤服用歴管理指導の確認項目も増えています。

薬剤師は患者さんへの薬剤の処方以外にも、申請書類の作成やシフト管理、薬剤の在庫確認及び発注、医薬品卸売会社との価格交渉、売り上げ数値管理など、多くの業務をこなさなければなりません。しかも、すべての業務には医薬品や医療制度、管理などの専門知識が求められ、診療報酬改定によって変化する事柄にもその都度対応していく必要があります。

診療報酬改定によって業務量が増加したことで、限られた時間の中で業務を行うには厳しい状況となっています。感染症や花粉症など、医薬品の需要が高まる繁忙期になれば、残業時間も長くなるでしょう。業務量の増加は、薬剤師一人ひとりの負担を大きくしています。

・薬剤師・後継者不足



調剤薬局業界では、以前から薬剤師の不足が大きな課題となっていました。これは、少子化と薬学部が6年制に移行したことが主な要因です。調剤報酬の引き下げで利益が減少する中で人件費も圧迫されてしまい、薬剤師を採用したくても大手には叶わない状態となっています。

薬局の経営者もまた高齢化の影響を受けており、引退時期を目前に控えた立場の人も多くいます。しかし、薬剤師不足という現状もあって後継者が見つからず、閉業を余儀なくされているケースも少なくありません。閉業となれば、ともに働いてきた従業員にも大きな影響を与えてしまうことになります。中小規模の調剤薬局は特に薬剤師不足と後継者問題による影響が深刻になっているのです。

■地域包括ケアシステムへの整備による環境変化

国は、地域医療を促進させる目的として、団塊世代が75歳を超えるタイミングとなる2025年に向けて地域包括ケアシステムの整備に取り組んでいます。2016年には、地域包括ケアシステムの一環となる健康サポート薬局がスタートしました。

健康サポート薬局はかかりつけ薬局機能の構築に加え、市販薬や介護用品など幅広い相談に対応する機能を持つ調剤薬局のことです。健康サポート薬局になるためには様々な要件をクリアして認定を得なければなりません。

例えば、土日いずれか営業すること・相談しやすい環境を整備することなどが要件として挙げられます。患者さんにとって薬を処方してもらう際に健康相談や介護用品に関する相談ができるのは、生活する上での安心感にもつながります。

様々なサポートが受けられる調剤薬局があるなら、他の調剤薬局から移る人も増えてくるでしょう。しかし、健康サポート薬局は認定すべき要件が多いために、今後は認定を得られない調剤薬局も増えてくる可能性があります。

また、2022年度の診療報酬改定ではリフィル処方箋の導入についても提言されました。リフィル処方箋は持病や特定疾患などで定期的に通院している患者さんを対象にした、一定期間内で複数回利用できる処方箋のことを言います。同じ薬を定期的に処方してもらうたびに医療機関を受診する必要がないため、通院回数が減少し患者さんの負担軽減につながります。

リフィル処方箋には医師や患者さんのメリットも多いですが、医師からの経過観察が受けられなくなることで、処方箋を確認する際に薬剤師が患者さんの経過観察を行い、医師の診察を受けずに調剤して良いかを判断しなければなりません。そうなれば薬剤師の責任もより重くなり、負担が大きくなることが予想されます。

地域医療の促進による健康サポート薬局やリフィル処方箋に対応していくには、対人業務の負担を増やし、サービスの質も向上させる必要があります。しかし、診療報酬改定による調剤報酬の引き下げの影響で、人件費や業務量の増加における負担を軽減しながら、患者さんへのサポートを拡大していくことは決して簡単なことではありません。調剤薬局業界を取り巻く環境の変化によって、薬剤師にとっての負担も大きくなる可能性が高いです。

■調剤薬局経営を見直すためにできることは?

調剤薬局経営が年々厳しくなる中で、安定した経営を行うためにはどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。ここでは調剤薬局経営を安定した経営を行うために、見直すべきことをご紹介します。

・門前の病院・クリニックの処方箋に頼らない



調剤薬局の主な収益は保険調剤収益が大半を占めていますが、中には門前の病院やクリニックからの処方箋を頼りにしている調剤薬局もあるかもしれません。しかし、近隣に健康サポート薬局やリフィル処方箋などを導入している調剤薬局があれば、その薬局の集中率が高くなり利益が減少する可能性もあります。これまでは門前の病院やクリニックの処方箋枚数だけで経営できていたとしても、今後は時代に合わせた経営が求められるでしょう。

調剤薬局の利用機会が少ない人々をターゲットにして、薬局をPRするというのも方法の1つです。医療機関に行くほどではなくても気になる症状があって相談したい人や、どのような診療科を受診すべきなのかわからないといった人などが気軽に相談できる環境を整えることも、重要な取り組みと言えます。

・残業時間の削減



薬剤師は、業務量の増加によって残業時間が長くなりがちです。調剤薬局を閉めた後で行う業務も多く、遅い時間にようやく薬剤の在庫管理や書類の整理を行うといったケースもあります。しかし、長時間の残業は心身ともに影響を及ぼすため、日々質の高いサービスを提供するということ自体が難しいものになる可能性もあるでしょう。

生産性を向上させるには、残業時間の削減が必要です。質の高いサービスを提供し続けるためには、現在の業務量をどう減らしていくかを考える必要があります。業務の優先順位や緊急度合いなどを明確化することで、効率の良い働き方をしていくだけでも状況が改善される可能性が高いです。

・オンライン服薬指導への対応



SNSを活用したオンラインでの服薬指導や薬相談などの体制を整えることも有効です。オンライン服薬指導を含めた対応なら24時間対応や在宅対応も可能となり、医療機関との連携も図りやすくなります。

近年は多くの人々がSNSを使用しているため、オンラインでやり取りする機会・システムづくりも検討してみましょう。調剤薬局と患者さんとの関係も構築しやすくなります。

・電子薬歴や自動調剤ロボットの導入



薬剤師の業務量が増加すれば、その分患者さんの待ち時間も長くなってしまう可能性があります。電子薬歴や自動調剤ロボットを導入すれば、対象となる薬剤のデータや確認事項なども簡単な入力だけで済ませられるでしょう。

自動調剤ロボットの導入は高額なので、負担が大きい場合は電子薬歴の導入のみでも問題ありません。薬剤師の負担を軽減しつつ、患者さんの待ち時間も短縮できます。

・在宅医療への対応



国は、2025年に向けて地域包括ケアシステムを整備しています。調剤薬局が地域包括ケアシステムの方針に沿った経営を行っていくには、在宅医療への対応が必要です。

団塊世代が75歳を超えれば通院患者数はもちろん、在宅医療患者数も増加する可能性が高いです。薬剤師が在宅医療に対応するようになれば、医師や介護士の負担も軽減できるほか、患者さんも安心して生活を送れるようになります。

・健康サポートの実施



地域包括ケアシステムの整備を進める国の方針に沿った経営ができているか、地域に根差した医療・介護と一体化した体制を構築できているかが、調剤薬局経営における成功の鍵となります。地域のイベントで薬相談会を実施したり、ニーズの高い物販を増やしたりすることで、調剤薬局のファンを増やすというのも1つの方法です。また、医療機関や介護期間向けに調剤薬局を紹介するリーフレットの作成・配布をするのも効果的です。

■個人の調剤薬局経営者が店舗を増やすならM&Aが有効

現在、全国には調剤薬局を1店舗のみ経営しているという人は非常に多いです。厚生労働省の「かかりつけ薬剤師・薬局に関する調査報告書」によれば、1店舗の調剤薬局のみを経営している事業者は全体の27.6%という結果が出ています。一方、大手調剤薬局チェーンで50店舗ほど経営している事業者の割合は全体の22.6%となっており、中小規模の事業者の方が多いことがわかります。

ただし、調剤薬局は規模が大きければ大きいほど収益率が上がることがわかっており、1店舗のみの経営では収益が上がりにくく、経営を圧迫するケースも少なくありません。収益を高めるために、店舗数の拡大を検討している経営者もいるほどです。

そこで有効なのが、薬局M&Aの活用です。店舗数を拡大するには新規で開業するか、既存の店舗を事業承継するかの2つの選択肢があります。

新規で開業する場合は、処方箋の枚数や売上を伸ばすための予測がしにくく、軌道に乗るまでに時間がかかります。しかし、既存の店舗をM&Aで購入すれば、必要な薬剤や技術料なども予測しやすいです。

M&Aは新規開業よりも資金が必要になりますが、早期に売上を伸ばしていける可能性を考えると、M&Aの方がメリットも大きくなるでしょう。ただし、店舗数を増やせば薬剤師の配置も必要となるため、資金や人員不足は懸念材料の1つと言えます。

また、配置した薬剤師が優秀な人材かどうかも経営に大きく関わってきます。資金や人員などの課題が解決できれば、M&Aは調剤薬局経営を安定させるために有効な選択となるでしょう。

■課題解決に向けて薬局M&Aをするならアテックへ!

課題解決や安定した経営に向けて、M&Aを検討しているならアテックにご相談ください。 アテックは国内で初となる調剤薬局M&A仲介会社であり、創業当初から調剤薬局のM&Aに特化したサポートを行ってきました。調剤薬局業界を取り巻く環境では、多くの課題を抱える経営者もたくさんいます。

経営環境が変動する中、調剤薬局は経営のあり方を見直す必要が出てきています。アテックでは中立かつ公正な立場から、調剤薬局経営者の理想と実現を叶えるためにサポートしており、迅速な課題解決と戦略における要望にも応えることが可能です。

また、調剤薬局M&Aマッチングサイトであるファーママーケットの運営も行っています。ファーママーケットを活用すれば、調剤薬局の売却をしたい人と購入したい人の一覧が確認でき、条件に合う後継者や薬剤師を見つけることも可能です。

調剤薬局経営に悩みをお持ちの方は、ぜひアテックへお気軽にご相談ください。薬剤師としての経験も持つスタッフが、最適な提案をいたします。
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